スペインでプレーする元日本代表ＤＦ丹羽大輝は、２０２４―２０２５年シーズン、アレナス・ゲチョの一員として４部相当リーグでリーグ優勝を果たした。自身の出場はわずか５試合。それでも「最高の１年でした」と振り返る。日本ではＧ大阪、徳島、大宮、福…
スペインでプレーする元日本代表ＤＦ丹羽大輝は、２０２４―２０２５年シーズン、アレナス・ゲチョの一員として４部相当リーグでリーグ優勝を果たした。自身の出場はわずか５試合。それでも「最高の１年でした」と振り返る。日本ではＧ大阪、徳島、大宮、福岡、広島、ＦＣ東京でプレーし、新たな挑戦を求めて飛び込んだスペインの地。４年目にして直面したのは、サッカー人生初の“戦力外扱い”だった。そんな状況にあらがい、戦い、そして覆した１年間を振り返った。（全４回の３回目 取材・構成 金川誉）
スペイン４年目のシーズン、サッカー人生で初めて戦力外の扱いを受けていた丹羽だったが、心が大きく動いた出来事があった。丹羽がベンチ外で、帯同していなかったあるアウェーの試合後。チームのＳＮＳを見ると、自身の背番号５を着たチームメートの姿があった。
「キャプテンが僕のユニフォームを着て、写真を撮ってくれていたんです。そこにすべてのメッセージがありました。その瞬間、試合に出ていなくても、自分がこのチームにいる意味はあるって確信しました」。チームメートは、丹羽の行動に何かを感じ取っていた。
チームとは、本当に微妙なバランスで構成されている。緩んだ空気は伝染するし、逆に一人の行動が、波及していくこともある。試合には絡めなくとも、不満を漏らすどころかすべてをサッカーに捧げる丹羽の姿は、静かに、そして確実に何かを伝えていった。
「僕が陥った状況は、監督と話して解決するとか、そういうものじゃないなと。使いたい、こいつはチームに必要だなって思われないといけない。例えば練習で、僕が若い選手に１対１で抜かれるとか、シュート決められるとか、ミニゲームで負けるとか、そんなことをしていると絶対にその試合に使われないし、選択肢にも入らない。もう毎日、自分に打ち勝とうとやっていた。だから、不気味に映っていたと思いますよ。チームメートとか監督には。なんで、あいつはここまでにやるんだ、って思っていたと思います」
そしてその時はやってきた。２０２５年１月末から２月にかけて、チームは今季初の連敗。そして２月９日のアングイアーノ戦。何の前触れもなく、丹羽は突然ベンチ入りを告げられた。そして後半、今季初のピッチへ。４５分間にすべてをぶつけた。試合は前半奪われたリードを取り返すことができずに０―１と敗れたが、丹羽自身は「試合に出て、やっぱりやれるっていう感覚を取り戻した」と言う。この試合をきっかけに、３月には４試合に出場し、うち２試合は先発も果たした。フル出場した３月３０日のログローニョ戦後、イバイ・ゴメス監督がミーティングで、選手たちに向かって呼びかけた。
「僕のことを名指しで、こんなプロフェッショナル、今まで見たことないと言ってくれました。今までは、僕の話題なんて一度もチームの前で話したことはなかった。でもこのときは、認めてもらえた、と感じた瞬間でした」
苦しい時期を乗り越えたチームは、リーグ優勝を果たした。丹羽の出場は、３４試合中わずか５試合。それでも、かつてない苦境を乗り越え、いままで味わったことのない充実感を味わった。「今年、優勝できなかったり、試合に出られなかったら、僕のやってきたことは自己満足で終わっていた。でも全部をリンクさせて、最終的に監督からハグしてもらえるような関係になったのは、僕の中では一番嬉しかった」。それが今シーズンを振り返り「最高の１年でした」と心から言えた理由だった。（第４回に続く）
