今年の高校生を代表する左腕が愛知・高蔵寺の芹澤 大地投手だ。昨夏の愛知大会で常時140キロ・最速147キロの速球を投げ込んでから、一躍、注目される存在となった。甲子園には縁がないものの、昨秋は愛知県選抜、今年の春には高校日本代表候補に選出さ…
今年の高校生を代表する左腕が愛知・高蔵寺の芹澤 大地投手だ。昨夏の愛知大会で常時140キロ・最速147キロの速球を投げ込んでから、一躍、注目される存在となった。甲子園には縁がないものの、昨秋は愛知県選抜、今年の春には高校日本代表候補に選出されている。当然、その進路が注目されたが、プロ志望届を出さず、社会人野球に進むという。逸材はなぜ高卒プロではなく、社会人を選択したのか。その思いを聞いた。
ストレートがリリース後に加速する?
芹澤はこの3年間、「打たれない直球」を追求してきた。脱力した動きからリリースの瞬間に100の力を入れて投げるストレートはこの春に150キロに達した。今では150キロ近い速球を投げる高校生は多くいるが、その中でも芹澤のストレートがまともに打ち返されるところは見たことがない。打たれにくい投球フォーム、打たれない球質をしている。
並み居る好打者、強打者が集まった4月の高校日本代表候補の強化合宿では、2イニングを投げ、4奪三振、1失点の好投だった。タイムリーを打たれたのは変化球だった。芹澤は「直球はほとんど前に飛ばされなかったので、自信になります」と手応えを感じていた。打者たちに話を聞いても「芹澤の直球はすごかった」という言葉が返ってきた。
昨秋、愛知県選抜の監督だった杜若の元プロの田中祐貴監督は芹澤の直球をこう評している。
「体の使い方、力の伝え方が非常に上手い投手だと思います。球質については途中からだんだん速くなるイメージ。リリース後10メートルぐらいの加速の仕方がちょっと見ないレベルです。ある意味“高校生らしくない”。加速し続けながら、キャッチャーミットに入る感じです。良いストレートを投げると、捕手がまともに捕れないんです」
加速するようなストレートを投げるために、芹澤は脱力感を意識している。
「力まないこと、指先を弾くような感じでリリースすることを大事にしています。こうしたリリースは自然とできていたというか……。少年野球の時に『体の力を伝えるのが上手いね』といわれたことはあります」
芹澤自身、自分の能力に気づくのは遅かった。高蔵寺市出身で、高蔵寺中でも目立った存在ではなかった。高蔵寺高校に進んだのも野球がきっかけではない。
「家から自転車で20分ぐらいでいけるぐらい近くて、学力的にも自分と合っていたので、高蔵寺に決めました」
高蔵寺では1年夏からベンチ入り。今まで自分の球速を知らなかった芹澤は1年夏の大会で130キロが出たことを知る。そこから指導者の勧めでインステップ気味だった投球フォームを、右足をまっすぐ踏み出すフォームに修正した。
「ずっとインステップで投げていたので、最初投げていた時は違和感がありました。でも投げていくうちに手応えは感じはじめました。インステップのときは意識していなかったんですけど、真っ直ぐ投げていく時に股関節を使うことを意識しはじめて、ストレートも伸びるようになりました」
こうして2年春の地区予選で最速140キロに到達し、さらに軸足である右足の使い方にも改良を加えた。
「体重移動の仕方を変えたのも大きいです。自分の中では、2年春の段階では後ろ足を蹴る意識はなかったんですが、夏に向けて、後ろ足の使い方を研究して、強く蹴るようになり、だいぶ変わったかなと思います」
フォーム修正は高蔵寺OBの指導が大きかった。
「細かいところを指導者の方々にアドバイスをもらって、参考にしています。なかでも体重移動や前足の使い方はよく言われています。投げ終えた後に三塁側に体重が乗ってしまって、体が流れることを指摘されています。そのために、右膝が割れないように意識させて、投げ終わりを安定させるように指導を受けています」
こうして芹澤は並外れたストレートを投げられるようになった。前述のとおり、2年夏以降メディアから大きく注目される存在となったが芹澤自身は「注目されることに驚きましたし、球速が出たことはすごいことなんだなと思いました」とようやく自らの力を実感するようになる。それまで芹澤は、甲子園もプロも意識していなかったのだ。

高卒プロを選ばなかった理由
2年秋、芹澤のプレーするステージが高くなった。昨年11月には、愛知県選抜に選出され、今年4月には高校日本代表候補の合宿に参加した。この2つのステージで、「変化球の精度」という課題をみつけた。愛知県選抜vs三重県選抜の試合で先発登板した芹澤は、2回3失点。高校日本代表合宿では2回1失点。いずれも失点は変化球を打たれたものだった。芹澤の変化球はプロ志望を掲げている左腕投手と比較すると見劣りする。レベルの高い打者には直球に頼るのが現状だ。
芹澤自身、変化球を投げるのは苦手だと語っている。
「自分自身、指先感覚が良いほうではなく、器用に投げている投手と比べるとまだまだです。高校日本代表候補の合宿では京都国際の西村(一毅)くんが同じ腕の振りで直球と変化球を投げていてすごいなと思いました。ストレートの調子が悪いときに保険となる変化球を身に着けたいですね。調子が悪い時でも安定した投球を夏までに完成させたいと思っています」
春の県大会では3回戦の安城戦で7回112球、11奪三振、無失点。翌日の4回戦では日本福祉大付と対戦し、9回完投負けとなったが、133球、12奪三振。2日連続で100球以上を投げたのは初めての経験だった。
「2日目(4回戦)のときは思った以上に投げることができました。自分の中でよく投げられたと思います。ただ週が明けてから疲れを感じたので、体力面でまだまだなのかなと思います。夏は結構暑くなりますしいつでも連投できるような体力が必要だと思うので、そこはちゃんとしっかり鍛えていきたいと思っています」
注目される芹澤の進路だが、プロ志望届を提出せず、社会人に進む予定だ。
「プロはレベルが何段階も上。『プロで通用するのかな』という不安はあります。高卒プロという道はあると思うんですけど、まずは大学、社会人のレベルを経験してからプロを目指しても良いかなと思います」
春の県大会では3回戦、4回戦で連続二ケタ奪三振。昨夏から私学の強豪校相手に直球でねじ伏せる投球を見せてきた。それでも高卒プロにいく自信はついていない。
「やはり制球力、変化球の精度など足りない部分はありますので、プロにいくにはまだまだだと思っています」
芹澤の成長を見守ってきた河原仁監督も同じ感想だ。
「芹澤はマイペースな子であると同時に、勝負強さがある投手です。しかし、課題も多い。まず線が細い。バント処理、変化球の精度なども全く未完成です。身体づくりや技術はプロに入ってから身につければいいともいわれますが、極端にレベルが違う環境でそれができるかといえば、できないと思っています。プロに入る選手たちはかなり競争意識を高く持って臨んでいます。いきなりそういった選手たちと競争しながら活躍を目指すよりは、ワンクッションを置いたほうがいいかなと言うのが私の考えです。プロは生易しい考えで行く場所ではないです。しっかりとした環境で、しっかりとした指導者に見てもらって段階を踏んでプロを目指しても遅くはないと思います。そこで結果が出なくても実業団ならば面倒を見てもらえますし」
素晴らしい才能を持ちながらも、プロの環境に戸惑った末、イップスに陥り早い段階でユニフォームを脱いでしまった選手はいた。芹澤は並外れた直球を投げる才能を持つが未完成の素材。いきなりプロではなく、段階を踏むという決断は間違っていないと感じる。
高校日本代表に選ばれたい

芹澤は6月21日の富田(岐阜)との練習試合で4回4奪三振、無失点の快投をみせた。夏に向けて芹澤は言う。
「体力をつけるよりも、いまある体力のなかで長いイニングを投げるために、力を入れて投げるところとそうではないところ。そこを意識するようになりました。今までは結構力を入れて全て投げるようにしていたので、力を入れずにストライクを入れると新しい感覚になるので難しい部分があると思っています。ですので、今日の試合もやろうとしましたが、ボールが悪かったので、しっかり力を入れていいボールを投げようとしました。ただ平日のブルペンでストライクを狙う、コースを突く。球速を意識するように練習しています」
夏の愛知大会の組み合わせも決まった。初戦は6月28日の1回戦。相手は知立である。初戦に勝利すれば、名古屋たちばなと瀬戸の勝者と対戦する。厳しい組み合わせとなったが、名古屋たちばなとはこの春、練習試合でも対戦しており、手応えを感じている。
「ゴールデンウイークの時に練習試合で対戦しています。その時は調子が良くて、良い感覚で投げられたので、いいイメージは持っています。ですが、自分が良いピッチングをして抑えないと勝てないと考えています。ですので、自分にかかる責任は大きいかなと思っています」
エースとしての自覚が見える芹澤。最後に夏の大会へ向けての目標と高校日本代表入りの思いを語った。
「私立を倒したいという気持ちはあります。しかし、まずは初戦。しっかり良い試合をして、一戦一戦勝てるような試合をしたいと思っています。
候補に選ばれたからには、やはり本大会で日の丸を背負って戦いたいという気持ちは自分の中で大きいです。ただそのためには夏の大会でしっかり勝ち進まないと、そういうところは見えてこないと思います。ですので、まずは夏の大会でちゃんと良い結果を残せるように全力を尽くしたいと思います」
全国屈指のサウスポー・芹澤 大地のラストサマーがいよいよ始まる。