木村和久の「新・お気楽ゴルフ」連載◆第51回 先日、某スポーツチャンネルのスタジオに行き、日本の男子プロゴルフツアーの人気回復ディスカッションをしてきました。そのときに出た話をもとに、同ツアーの再生プランを考えてみたいと思います。 まずはゴ…
木村和久の「新・お気楽ゴルフ」
連載◆第51回
先日、某スポーツチャンネルのスタジオに行き、日本の男子プロゴルフツアーの人気回復ディスカッションをしてきました。そのときに出た話をもとに、同ツアーの再生プランを考えてみたいと思います。
まずはゴルフ人口とテレビ視聴率の関係についてですが、ゴルフの場合はプレーを嗜むゴルフ人口がほぼゴルフファンとなっています。ですから、ゴルフ人口が1200万人ほどいたときにはファンも1200万人ぐらいいて、男子ツアーのトーナメント中継も視聴率が最高10~12%ほどありました。
そして現在は、ゴルフ人口が500~600万人ほど。男子ツアーでも人気のトーナメント中継は視聴率5~6%ほどを記録しています。要するに、ゴルフ人口と視聴率は一致しているというか、比例している関係にあるんですね。
視聴率5%を取れれば、現在のプロスポーツ界では立派なものでしょう。プロ野球ですら地上波の中継がほぼなくなりましたからね。というわけでは、最初はこの話から。
(1)プロ野球との比較
プロ野球中継は今や、地上波ではほとんど放送されていません。そこで、各球団が力を注いだのが、試合の収益化です。テレビの放映権収入が減った分を、観客動員数を増やすことに尽力したのです。
そうして現在、どの球団も1試合平均2~3万人の観客を動員し大盛況です。もちろんそこに至るまでには、関係者が相当な努力をしており、そこはゴルフも見習わないと、ですね。
野球はフランチャイズ制で球場の運営がしっかりしています。しかも、各球団の球場は大都市か、その近郊にあり、お客さんを動員しやすい環境にあります。
翻(ひるがえ)って、ゴルフはひと試合ごとに会場が違って、アクセスも不便です。
そこで、私が注目しているのは、実業家の前澤友作さんが所有している千葉のMZ GOLF CLUB(長生郡睦沢町)の活用です。
同コースで今年、実験的に男子ツアーの『前澤杯 MAEZAWA CUP』(前澤氏主催、日本ゴルフツアー機構との共催で開催された男子プロトーナメント。開幕前週10日間にわたってプロアマ戦が行なわれ、その収益を本戦の賞金に還元するといった新たなスタイルの大会)が開催されました。ギャラリーをほとんど入れなかったため、前澤氏曰く「4億5000万円ほどの赤字」だったそうですが、うまいことやれば、収益化できる予感はありました。
たとえば、ギャラリーを何万人か集められるように観客席を整備し、フェスなどのイベントも開催して稼げないですかね。さらには、スタジアムホールを完備し、宿泊施設、バスターミナル、イベント会場なども整えて、アミューズメント型観戦コース仕様にするのもいいでしょう。そうすれば、男子、女子、シニアツアーはもちろん、チャリティ大会なども招へいし、年間数試合の開催が可能ではないでしょうか。
(2)女子ツアーの勢いを見習う
男子ツアーは低迷中ですが、日本の女子プロゴルフツアーは相変わらず活況を呈しています。それにしてもなぜ、女子は元気なのか?
第一に世界レベルの選手が大挙出現。実力がワールドクラスという魅力があります。
それに引き換え、世界で通用している男子プレーヤーと言えば、松山英樹選手くらい。どうして、世界とのレベル差がこんなに広がってしまったのか。
思い出したのは、横峯さくら選手を育てた父の良郎さんが昔、「女子ゴルフは俺でも教えられる」と冗談で語っていたこと。実はこれ、半分ぐらいは当たっています。
昔、ジャンボ尾崎選手や中嶋常幸選手を教えていた我が師匠、後藤修先生がこんなことを言っていました。
女子プロのスペックは、男子プロがいろいろと教えられる。けどじゃあ、男子のトッププロは誰が教えるんだ、と。
後藤先生はいつもそう言って、「日本には優秀なコーチがいない」と嘆いていました。加えて、男子プロの選手は人に教わるとき、「俺より上手いのか? (ツアーで)何勝しているんだ?」という見方をしてくると。
やはり、男子のプロツアーを盛り上げるなら、国やメーカー、あるいは何かしらの団体でもいいから、育成組織&施設を作らないと、ですね。
現在、ジャンボ軍団出身の女性選手の活躍が目覚ましいでしょ。それこそ"女子は教えられる"の証明で、組織的な育成効果が出ているのではないでしょうか。
男子もこういった団体を、公的な組織で作ってほしいものです。
(3)フィギュアスケートに学ぶ"推し"の文化
フィギュアスケートとゴルフには共通点があります。
フィギュアスケートも男子と女子がいるでしょう。そのファンはほとんどが女性です。片やゴルフは、男子、女子ともにファンの多くが男性です。
これは何かというと、今どきの表現で言えば"推し"の文化とでも言えばいいでしょうか。男子のフィギュアスケート選手は、一部アイドル化している部分がありますよね。つまり、ファンの多くは成績プラス、見た目の美しさ、優雅さに価値を見出しているのです。
女子ゴルフも同様です。実力はもちろんのこと、個々の選手のしなやかさ、キャラクターなどに魅力を感じて、"推し"を見つけて応援するファンが多いのです。
かつて、ローラ・ボーという美人ゴルファーがいて、彼女のカレンダーが日本のゴルフ出版物の1位を記録。いまだ、その記録は破られていないのだとか。
10年ぐらい前には、イ・ボミ選手がブレイク。ゴルフ雑誌は彼女を表紙にすると売れるので、その際にはあらかじめ増刷していた、というのは有名な話です。
女子のスター選手は、そのくらいの潜在パワーを秘めています。そのうち"令和のローラ・ボー"がどこからか現われるかもしれません。期待しましょう。
男子も昭和の頃は、AON(青木功、ジャンボ尾崎、中嶋常幸)全盛の時代があって、かなりの人気を博していました。
男子と女子のプロゴルフツアーは、ある意味で車輪の両輪といった面もあります。ですから、男子ツアーが弱っているときは女子ツアーが頑張る――今はそんな時期かなと思います。その間に、男子ツアーの人気も復活してほしいものです。
(4)心・技・体を習得する
以前、女子では宮里藍選手が一世を風靡。一時期、世界ランキング1位にもなりました。小柄な宮里選手ですが、大柄な欧米選手相手に対抗して好成績を出し続けたのです。
なぜそれが実現できたのか。宮里選手は飛距離で劣る分、アプローチやパターなどのショートゲームでカバーしていたのです。
聞いたところによると、宮里選手は練習ラウンドでわざとグリーンを外して、そこからアプローチで寄せワンを取ることに専念。最高16連続寄せワンを達成した、というのですから驚きです。とまあ、こういった陰の努力が実って、世界のトップに立てたわけですね。
なおかつ、宮里選手はすばらしい人格者で、人間的にも魅力がありました。
大相撲の横綱も、心・技・体を求められます。要は、トップに立つ者は成績もさることながら、人格や風格も必要だということ。
男子ツアーの選手たちは、そういう部分も足りないような気がしますね。
男子ツアーの人気回復には、各々の選手たちがプロとしての「心・技・体」を身につけることも必要かと...
illustration by Hattori Motonobu
(5)オリンピックから時短、ショーアップを学ぶ
最近のオリンピックは、スケートボードやBMXなどショーアップ&時短化された競技の波が打ち寄せています。そうした状況にあって、ゴルフは昔からずっと4日間競技。これって、長すぎますよね? テレビで観戦している人も、最終日の上がり9ホールぐらい見れば十分満足しているんじゃないですか。
近代オリンピックにおいて、ゴルフが長い間競技種目から外されていたのは、それが理由。現状のままだと、またいつか、オリンピック種目からゴルフが消えてしまうかもしれません。時代に逆らって、変わらずに4日間もやっていますからね。
現在、BS放送などではゴルフサバイバルやペアマッチ選手権といった新たなゲーム、演出法でゴルフを面白く見せています。何かそこらへんに、プロゴルフトーナメントの人気復活への解決のヒントがあるように感じます。
女子ツアーが盛況のうちに、なんとか男子ツアーも面白くなって盛り上がっていただきたいです。