東京世界陸上(9月)の最終選考会を兼ねた日本選手権は4日、東京・国立競技場で開幕する。大混戦の男子100メートルで、2…
東京世界陸上(9月)の最終選考会を兼ねた日本選手権は4日、東京・国立競技場で開幕する。大混戦の男子100メートルで、2大会連続代表を狙うのは柳田大輝(21)=東洋大=だ。昨夏パリ五輪で個人代表を逃した悔しさを乗り越え挑む。ともに競技者だった父・輝光さん(44)、母・昌代さん(45)がスポーツ報知の取材に、初優勝を目指す長男の強さや昨季からの復活劇を語った。(取材・構成=手島 莉子)
東京世界陸上シーズンに強さを増して帰ってきた。柳田は4月の学生個人選手権を制覇すると、5月は関東学生対校選手権で参考記録ながら9秒95(追い風4・5メートル)で優勝、セイコー・ゴールデングランプリ(GGP)、アジア選手権をともに2連覇するなど4連勝。父・輝光さんは「全部、やり残したことがないようにってやっている。より気持ちが入っている」とガラリと変わった息子の雰囲気を感じ取る。世陸の参加標準記録(10秒00)にも届く夢の10秒切りは、現実味を帯びている。
父は三段跳び、母の昌代さんは七種競技の元陸上選手で、2人の弟も競技者のアスリート一家。大輝本人は長身182センチから繰り出す大きなストライドを生かした走りが強みで、東農大二高2年時のセイコーGGP高校生特別枠で5位に食い込み、一躍注目を集めた。東洋大1年時から日本代表に定着し、この冬は「食事や睡眠など、練習以外のことも意識していた」と父。心身共に成長した。
試練を乗り越え強くなった。昨年のパリ五輪切符を懸けた日本選手権(新潟)。2位と1000分の5秒差の3位で個人代表を逃し、400メートルリレー代表としてパリへ。「本人の気持ちも察しますし、我々もつらかった」と輝光さん。「切り替えて」という気持ちで送り出した。
本番では予選2走で通過に貢献したが、決勝はメンバーから外された。両親は試合会場に向かう前のノートルダム大聖堂付近で「決勝は外されました。走りません。ごめんなさい」と連絡を受け、昌代さんは「日本の代表として行ったことが我が家の誇りだよ」と声をかけた。当時を振り返り、母は「陸上人生の中で一番悔しい思いをしたのが、そこだと思います」。柳田は真正面から受け止め、代表として最後まで戦い抜いた。
4月から負けなしの4連勝。5月のセイコーGGP(東京)は19年ドーハ世陸金のコールマン(米国)らを破って今季日本最高の10秒06(追い風1・1メートル)で制覇した。「今の僕の生命線」という得意のロケットスタートで先行し「60メートルで決着をつける」と競り勝った。日本選手権で狙うのは初優勝と世陸の参加標準記録突破。長男の歩んできた道のりを知るからこそ、父は「自己ベストを出してくれたら、それが一番。必ず日本一、世界陸上の代表をつかみ取りなさいというのは、正直あんまりないです」という。熱い夏が、いよいよやってくる。(手島 莉子)
◆男子100メートルの展望 世陸代表枠は最大3。参加標準記録(10秒00)を突破して3位以内に入れば内定。今大会でクリアしなくてもワールドランキングでターゲットナンバー(男子100メートルは48人)に入れば代表入りとなり、柳田大輝、サニブラウン・ハキームは現在枠内にいる。今季ベストが10秒31と伸び悩み、ただ一人参加標準を突破しているサニブラウンは今回3位以内なら代表入り、決勝進出で大きく前進。元日本記録保持者の桐生祥秀、5月に10秒09をマークした小池祐貴らベテランも健在。早大4年の井上直紀は勢いがある。
◆柳田 大輝(やなぎた・ひろき)2003年7月25日、群馬・館林市生まれ。21歳。東農大二高2年時に10秒27をマークし一躍注目を集める。東洋大1年時の22年日本選手権では3位に入り、同年のオレゴン世界陸上400メートルリレーで初代表。23年日本選手権は2位で同年ブダペスト世界陸上は100メートルと400メートルリレーで代表入り。24年パリ五輪400メートルリレー代表。家族は両親と弟2人。182センチ、71キロ。